【第51回・望むもの、望まないもの】

ヤンキースのダリル・ストロベリーは先週自主的に薬物更正クリニックでのリハビリを中断した。それまでフロリダ州フォート・ローダーデールでの3ヶ月半に及ぶリハビリに励んで来たのだが、家族を養うためと野球への復帰のためという名目でこれを中断。以前所属していた独立リーグのセントポール・セインツで選手兼任コーチとしての復帰を考えていた。

このリハビリを中断したことについてストロベリーは「クリニックのみんなは困惑してるかもしれないね。分かって欲しいんだけど、これはオレ自身のための決断なんだ。一日も早くスタジアムに戻るために、家族を食わせていくために必要なんだよ」と焦りともとれる心情を告白している。確かに1月以来3度にわたって行われて来た薬物検査でもすべて陰性との結果が出ており、リハビリは順調に進んでいると見ていいのだろう。

しかしストロベリーの想いを遮るように、大腸ガンが再発した。

CTスキャンによる検査によると、前回摘出されたガンがあったところの近くに再発して、今回はリンパ腺のあたりにも広がっているのだという。「オレには素晴らしい家族がいて、成長を見続けたい子供がいる。何があってもこのガンと闘うつもりだ。そうすりゃ家族との余生を楽しめるんだからな」とエージェントを通してコメントしたストロベリー。その中には現役復帰という言葉は聞かれなかった。復帰を目指しての一歩を踏み出そうとしたときに告げられたガン再発のショックたるや察するに余りある。

ただ一方で謹慎期間中の酒場への出入りを禁じられていながらも、バーで飲んで女性と一緒にいたところを写真を撮られて雑誌に掲載されてしまったという失態も演じており、この件に関しては後日監督官の尋問もあるという。このあたりもストロベリーらしいといえばストロベリーらしい。

せめてガンの治療はごまかさず、裏切らず、正面から闘って欲しいものである。先日TVで放送された広島カープの故・津田恒美投手の闘病生活を題材にしたドラマを見ただけに余計にそう思ってしまう。もちろんグラウンドに再び戻ってきて欲しいという想いはいうまでもないことではあるが。

【第52回・少年時代の夢】

7月31日のトレード期限が過ぎ、今シーズン中の選手移籍の動きはこれにて打ち止めとなった。このトレードが各チームにとって、また選手たちにとって良いものであったかはこれから結果が出るところだが、トレードによって少年時代からの夢がかなったという選手がいる。厳密に言うとトレードではなくウェイバーによってフィリーズからレッドソックスに移籍したリコ・ブローニャだ。

ボストンの近くで生まれ育ったブローニャにとってはまさにレッドソックスは子供のころからのあこがれの球団。「昔っからレッドソックスでプレイしたいと思ってたんだよ」というブローニャは過去3年間のシーズンでいずれも20本以上のホームランを叩き出し、98・99年と2年連続で100打点以上をマークしているが、5月初旬に負った左腕のケガの影響もあって今シーズンは38試合しか出場していない。実際にはトレード期限前からフィリーズとレッドソックスの間でトレード交渉が行われていたが、金額面で折り合いがつかずに期限が過ぎ、最終的にウェイバーによる移籍となった。

「レッドソックスのユニフォームを着るのがガキのころからの夢だった。カールトン・フィスクが一番のお気に入りでね。ありきたりな言い方かもしれないけど、オレの夢がかなったって感じかな」と喜びいっぱいのブローニャだが、もちろん大事なのはこれから。チームの一員というだけでなくヤンキースとの地区優勝争い、アスレチックスに3ゲーム差をつけられたワイルドカード争いを闘うための大事な戦力になることが彼のため、そして彼がホレたチームのためになる。ブローニャの夢にはまだ続きがあるはずだ。

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First Created 99/08/23
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